法令の読み方入門第1夜―「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」を読む―

1 はじめに
 平成19年12月2日付けで少し触れたように、昨年、大学のゼミの後輩向けに作った「法律・政策に関する文献検索の技法(β版)」(平成18年3月1日)と題するレジュメがあるのですが、これに加筆修正したものを後日、この日記上で公開しようと考えているところです。
 しかしながら、法令・判例・政策情報の検索方法についてこの日記で取り上げる前に、「法令の読み方」というワードでググッてこられる方がいらっしゃるようですので、先に「法令の読み方(なお、ここでいう法令の意味は、法律、政令及び府省令という意味です。)」について、私なりにこの日記で取り上げてみようと考えました。
 「法令の読み方」を取り上げる場合、「法とは何か」、「法令とは何か」、「憲法と法令の関係」といった基本的な問題についても、いくらか言及する必要があるのですが、当面はそのような抽象性の高い話はおいておいて、具体的な「法律」を実際に読む作業を通して「法令の読み方」について考えてみたいと思います。なお、今回、私が題材として取り上げるのは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)」です。
 この法律を取り上げる理由としては、第1には廃棄物処理というのは市民生活にもっとも密接に関連していることから馴染みやすいのではないかと考えたこと、第2には、廃棄物処理については、一般廃棄物処理を市町村、産業廃棄物処理都道府県が、それぞれ所管しているため、市町村職員及び都道府県職員の方の双方に関連のある法律だと言うことです*1
 なお、この記事について、主に大学生で行政法・立法学等を学ぼうとしている人や、新規採用の自治体職員が「法令の読み方」の基礎を勉強する上で必要な知識について触れるために掲載するものであり、必ずしも立法技術論・法制執務論的に見て正確な表現になっていない部分があります。また、筆者自身の勉強不足や誤解がにより誤った内容が書かれている場合も多々あると考えます。したがって、より詳細に学びたいとお考えの方は、「自治体法務の備忘録」のid:kei-zu様が作られているアマゾンのリストがありますので、そこに掲載されている本を参考にされることをお勧めします。

(補足1:今回の記事を作成するに当たっての参考文献)
 今回の記事を書くにあたり、私が参考としている文献は(1)大島稔彦(編)『法令起案マニュアル〔初版〕』(ぎょうせい、2004年)及び(2)石毛正純『自治立法のための法制執務詳解〔第4版〕』(ぎょうせい、2004年)の計2冊になります。(1)は、横書きの法制執務の本で、各種の法的しくみについて取り上げられており法政策的な意味で立法技術を考えようとする上では非常に参考になる本です。ただし、法令データベース等を用いて利用することを前提に書かれているため、他の法制執務の本に比べれば情報量が少ない印象を受けます。(2)は、地方公共団体の条例・規則等の起案の場面で利用されている本で、内容・量・値段等を総合的に見て手ごろな本であると考えます。
 なお、改訂版が出た『ワークブック法制執務』についても、非常に著名な本ではあるのですが、私自身が旧版を持っておりませんし、最新版も入手していない関係もあり、今回は参考文献から外しております。
 
2 法律の題名と番号

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年十二月二十五日法律第百三十七号)

 今回取り上げる法律は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」ですが、みなさんはこの法律の名前をお聞きになったことがあったことがこれまであったでしょうか。テレビや新聞等で取り上げられる場合には、「廃棄物処理法」と略されることの多い法律でして、そちらの名前の方が馴染みがあるかもしれません。
 法律には、それぞれ名前が附されていますが、それらのことを「題名」といいます。この題名は、対象となる法律の内容を簡潔かつ的確に表すようにつけるようになっているはずなのですが、実際には素人目で見て「的確」とはいえても「簡潔」とは言い難いものがあるように思います。今回の法律については、その名のとおり「廃棄物の処理」と「清掃」についてイロイロと書いた法律であると。まあ、それだけ言っても何のことだかさっぱり分かりませんが。


 さて、実際に、法令や公文書において個別の法令を特定する場合には、この「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」という名前を書くだけでは十分ではありません。この法律を正しく特定するならば、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)」という書き方を行なうことが適切です。この括弧書きに書かれているのが、公布年と法令番号です。
 公布年と言うのは、法令が公布された年のことを言います。法令と言うのは、行政と市民との間を規律する内容を含むものであるため、広く国民に知らしめた上で、具体的な実施・運用(施行)を行なう必要があります*2。そこで、法律を施行する前に広く国民に知らしめることを、「公布」といいます。この公布は、法令が効力を持つためには重要な行為であり、憲法第7条第1項によれば、法律、政令及び条約の公布は、内閣の助言と承認の元で天皇が行なうことになっています(いわゆる、国事行為)。また、個別の法令には、法令それ自体に先立って「公布文」なるものがつけられていますが、法令集ではそれらの記載は省略されています。

日本国憲法
第七条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一  憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 (以下、略)

 なお、具体的に天皇が署名し内閣総理大臣が副署した法律の原文などは、我々が見ることはできないのでしょうが、具体的に我々が見ることが可能な法令というのは、「官報」に掲載されている法令です。

 次に法令番号と言うのは、法令に附される通し番号のことな訳ですが、「法律第○号」「政令第○号」と言った形で公布年毎に公布の順に番号が附されていくことになっています。

 さて、ここで総務省法令データベースを読み返してみると、「昭和四十五年十二月二十五日法律第百三十七号」となっているのですが、先にも述べたように法令番号は当該公布年毎で第1号から番号が振られていますので、「月日」を記載しなくても、公布年と法令番号だけあれば対象となる法令の特定が可能となるわけです。

 なお、以下では、特に正式名称を用いる必要がない場合には、「廃棄物処理法」の略称を用いることとします。


(補足2:法律の題名と法令データベース検索)
 先に述べたとおり、私たちが知っている法令の名前と言うのは、「廃棄物処理法」のようにその法令の略称である場合があります。したがって、法令データベースなどで法令を探したい際に、法令名検索を自分が知っている名称で法律を検索しても、データベース検索でヒットしない可能性を意味しています。
 総務省法令データ提供システムの場合には、題名の略称でも検索できるようになっています。これはかなり便利でして、廃棄物処理法は「廃棄物処理法」でも「廃掃法」でも検索がヒットします。
 しかしながら、自治体職員が財務関係事務で引くことのある「自治令(≒地方自治施行令(昭和二十二年政令第十六号))」については、「自治令」ではヒットしません。このような場合には、「自治」のみで検索すると言った、より細かい単語に分割しての検索が必要となります。

(補足3:法律の改正状況)
 法令が最初に公布された年は、その法律を特定する上で非常に重要な情報なのですが、法令を仕事上使う上でもっと重要なのは、法律の改正状況の方でしょう。法令集では、法令番号の次あたりに改正履歴や最終改正の時期が記載されていると思います。
 なお、法令を読む上では、常に最新の改正法令の参照する必要があります。しかし、実際的には法令が掲載されている各媒体ごとに、実際の改正状況とタイムラグがあるため、どのように「最新法令」を調べるのかも問題となりまが、それは今回の記事の主たるテーマではありませんので説明を省略します。

3 制定文
 さて、総務省法令データ提供システムの廃棄物処理法を読んでいると、題名の次に出てくるのが、

清掃法(昭和二十九年法律第七十二号)の全部を改正する。

という一文です。これは、「制定文」と呼ばれるものです。制定文というのは、すべての法律についているわけではなく、全部改正法令についているものです。
 廃棄物処理法の場合には、そのまま書いてあるとおり、以前存在していた清掃法を受けて、その全部改正によって成立した法律だと言うことを書いています。「清掃法」から「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」へという変遷は、日本の環境行政・廃棄物処理行政を考える上でも興味深いトッピックなのかもしれません。

4 目次
 さて、制定文から下に目をやれば次に出てくるのが、

 第一章 総則(第一条―第五条の八)
 第二章 一般廃棄物
  第一節 一般廃棄物の処理(第六条―第六条の三)
  第二節 一般廃棄物処理業(第七条―第七条の五)
  第三節 一般廃棄物処理施設(第八条―第九条の七)
  第四節 一般廃棄物の処理に係る特例(第九条の八―第九条の十)
  第五節 一般廃棄物の輸出(第十条)
 第三章 産業廃棄物
  第一節 産業廃棄物の処理(第十一条―第十三条
  第二節 情報処理センター及び産業廃棄物適正処理推進センター
   第一款 情報処理センター(第十三条の二―第十三条の十一)
   第二款 産業廃棄物適正処理推進センター(第十三条の十二―第十三条の十六)
  第三節 産業廃棄物処理業(第十四条―第十四条の三の三)
  第四節 特別管理産業廃棄物処理業(第十四条の四―第十四条の七)
  第五節 産業廃棄物処理施設(第十五条―第十五条の四)
  第六節 産業廃棄物の処理に係る特例(第十五条の四の二―第十五条の四の四)
  第七節 産業廃棄物の輸入及び輸出(第十五条の四の五―第十五条の四の七)
 第三章の二 廃棄物処理センター(第十五条の五―第十五条の十六)
 第三章の三 廃棄物が地下にある土地の形質の変更(第十五条の十七―第十五条の十九)
 第四章 雑則(第十六条―第二十四条の六)
 第五章 罰則(第二十五条―第三十四条)
 附則

という部分です。やっと、何となく法律の読み方っぽくなってきましたね。これが、この法律の「目次」になります。なお、この「目次」についても、すべての法律に設けられているわけではありません。

 条文の数が多い法律になればなるほど、目次を読むことによって、自分の探している条文を見つける上の近道とすることができるでしょう。また、目次を読めば、その法律の全体的な構造を把握することができます。

 さて、ここで「目次」自体の話からは少し離れますが、廃棄物処理法の「目次」を通して法律の構造について見ておきます。よい文章に起承転結の流れがあるように、法律の規定の置き方にも一定の流れがあります。それは、「本則((1)総則規定⇒(2)実体規定⇒(3)雑則規定⇒(4)罰則規定)⇒(5)附則」という流れです。以下、この流れについて少し詳しく説明しておきます(なお、括弧書は廃棄物処理法上の対応する章番号)。

(1) 総則規定(第一章)
 法律の目的・趣旨・理念といった抽象的な事柄、法律の用語に関する定義、国民・国・地方公共団体の一般的な責務などが書かれています。特に総則規定の部分で重要なのが、用語の定義の部分になります。

(2) 実体規定(第二章から第三章の三)
 法律の目的を、規制・誘導・給付等々の様々な法的しくみを駆使して達成していこうとする部分です。(1)〜(5)の中で一番「華(花?)」がある部分でしょう。
 しかし、法律の中核になる重要な部分であることに違いはありませんが、この部分にばかり目を奪われていると、別のところに書いてある大事な部分を読み落としてしまったりすることがあるので注意が必要です。

(3) 雑則規定
 雑則規定などと言うと、なんとなく粗末なことが書いてあるような印象を受けますが、実は、行政上の手続きを行なううえでは重要なことが書いてあったりするので軽視できない部分です。

(4) 罰則規定
 その名のとおり、罰則について書かれています。次回以降に詳細に取り上げる予定ではありますが、なお、罰則と言っても、この罰則規定の部分に「××をした者は、○○年以下の懲役又は○○以下の罰金に処する。」という感じで書いてあるものもあるのですが、(2)実体規定で「第N条 何人も××をしてはならない。」等と書かれた義務規定を置いて、それを受ける形で(4)罰則規定で「第U条 第N条に違反したものは、○○年以下の懲役又は○○以下の罰金に処する。」と書くパターンになっているものもありますので、基本的に(2)と(4)はセットで読んでいく必要があります。

(5) 附則
 「附則」と言うのは、施行の時期や経過措置等について書かれている部分になります。なお、先に述べた(1)〜(4)までが「本則」と呼ばれます。
 一番最後に書いてあるので読み落としがちですが、特に改正法を読む上では、経過措置や施行日などは、かなり重要な情報ですので注意しておかねばなりません。また、地方税法附則などのように、それ自体が本則の実体規定と同列の内容が書かれていたりする場合もあります。


 さて、とりあえず不完全ながら第1条の手前のところにまでたどり着くことができました。次回からは、いよいよ第1条以降の主要な条文ものを取り上げて、法令を読んで生きたいと思います。

*1:また、私自身も過去に大学の課題研究で取り扱ったことがあり、法律自体の内容についてはある程度の予備知識を持っていることもあります。

*2:とはいいながら、実際には、公布日に即日施行される法令もありますので、あくまで法的な意味で広く国民に知らしめることというべきでしょうか。