大学文系新入生向け読書のススメ(その4)

今回は、具体的なトレーニングの方法について書きます。

前提:どれだけ読む本の量を確保していくのかということ

最初にトレーニングの基本的な考え方ですが、私の個人的な見解として、トレーニング初期については、ある程度の量をこなす多読を重視すべきであると考えます。理由は、色々とあります。第一に、ある程度、論理的に書かれた本をを読みこなせない背景としては、読解力そのものの欠如という問題よりは、読書を行う上で必要なバックグラウンドの知識の欠如の方が大きいと考えるからです。基本的な語彙力がないと文章をスラスラ読めませんし、ある程度の歴史、社会、科学的な知見とか、標準的でオーソドックスな物事の捉え方が備わっていないと、著者との見解を共有しようもありません。

また、高等学校までの国語で読む評論は、基本的に精読重視で、分量が少ないですし、評論文なども選りすぐった名文揃い、起承転結がそれなりに明確で、テーマも教育的な観点から選別されています。でも、実際に世の中に出回る本などというのは、もっと雑多で、お世辞にも品が良かったり、文章的に優れたものばかりではありません。そういう世界に慣れていくという点からも、多読が基本であると思います。

最初に:大学でとる講義に関連する本はしっかりと読んで冊数を稼ぎましょう

多読を中心にすえてトレーニングを効率的にやる上で重要なのは、まず、大学の講義に関連する本を読んでいく中で、ある程度の冊数を稼ぐという発想に立つことです。そうでないと、授業との両立が難しくなります。講義に関連する本と言っても、学術書を読むと言っているのではありません。とりあえずは、指定教科書プラスアルファ程度で、関連する新書なり文庫なりを数冊読むという事で良いと思うのです。私は、教養課程のときは、とりあえず、指定教科書込みで最低2〜3冊と決めてやっていました。これで1日2コマでも1学期で4〜6冊は読むことになるので、かなりの量になります。

もちろん、指定教科書などが読みこなせないことはあるので、完璧にできていたとは言いませんが、目標を定めるとダメだった時に、次頑張ろうという気持ちにもなります。学期末にレポートなどが出ると参考文献に挙げたりできるので実際に便利ではありました。また、基本的に各科目の先生がいますので、参考文献が紹介されるケースもあるでしょうし、授業後に、どんな本を読めば参考になるのか質問できるという気軽さもあります。

なお例えば、哲学とか思想など分野的な被りがある科目を受講しているなら、あまり細かいテーマの本を読むのではなく、哲学史や思想史など俯瞰性の高いオーソドックスな本を最低1冊は読んでおけば、1冊で2科目分で使えたりしますので、読む本は省略できます。

あまり杓子定規にやるのではなく、効率よくやっていくとよいと思います。高校までの授業と言うのは、積み重ねが重視されるので、ある程度、まじめにコツコツと言うのが大切だと思うのですが、大学時代は、科目数が多いので、一個一個丁寧にと言うには、やや無理がありメリハリをつけて勉強することは大切だと思います。特に、受験勉強的な考え方だと一夜漬けなんて典型的なマズイ勉強法な訳ですが、社会人になると、一夜漬けどころでない対応が要求される時もあります。そういう対応力を身につけることも一つの勉強ではないかと思います(別に一夜漬けを推奨している訳ではありませんが、そう言った横着さがないと社会人として苦労する場面があるのは事実です。)

なお、講義後にに先生に読むべき本を聞きにいくのは恥ずかしいというのであれば、その道の専門家が書いたブックリスト的な本があったりしますので、そういうものを参考にすればよいと思います。

次回は、今回の続きで、授業関係以外の本を読んで読者力を鍛えていく上でのトレーニング手法について考えます。

〔追伸〕

職場で新聞のチェックをしていたら、大学時代にオムニバス講義で授業を受けたことがある政治学の先生が寄稿されていました。

それこそ、授業終了後に教壇に駆け寄って、参考図書について質問したのですが、以前、マックスウェーバーの「職業としての政治」を読んだという話になって、「君は、第二外国語はドイツ語?私は、ウェーバーは英訳しか読んだことないけど、ドイツ語で読むと論理的な明晰さがヤバいらしいよ。」というレベルの高すぎるアドバイスをもらって、研究者志望というわけではなかった私はポカーンとした記憶があります(笑)

ウェーバーといえば、学部図書館の書庫でばったり出会った別の先生に、世良訳と大塚訳の読みやすさの違いについてアドバイスをいただいたこともありましたが、そのときもポカーンとしてたと思います(笑)