庁舎の移転とか建替えとか

 「「WTC移転案つぶしか」橋下知事、府庁舎建て替え新案に不快感(平成20年8月30日配信 産経新聞)」とのこと。100億円下がったなんて「行政の積算なんて、そんなもんだろ(笑)」って言ったらダメですか、そーですか…というのは冗談*1ですが(笑)まあ、100億円も下がるってことは、原案と新案とでは積算の基礎としている数値(庁舎の規模)とか前提とかがだいぶ違うのかもしれません。

 せっかく事務方が出してきた案なのですから、無理に原案に戻させるってのもどうかなー。まぁ、それだけ酷い案だったのかもしれないんですけどね。橋本知事という人は、恐らく事務方を信用していないのはよく分かるんですが、この手の話は、事後で担当部署呼び出して経緯を聞きだして、納得できなかったら情け容赦なく叱責すれば済む話で、いちいちマスコミを前に話す必要がある話なのかってのは疑問です。


 もちろん、住民への情報公開ってのは必要で会議モノっぽいんで内容をお話しするのは当然なんですけど、他方で、首長は絶大な権力を持っているわけですから、あまり公の場で事務方を叩くことばかり繰り返していくと部下の人心が離れていく原因になるのはもちろんのこと、結果的に周囲がイエスマンばっかりになってしまうんじゃないかなーって恐れはありますよねぇ。そこら辺、部下である職員を上手くコントロールしつつ、自分自身が裸の王様になてしまわないように注意するっていう能力が必要ではないかと思います。


 で少しマニアックな話になりますが、WTCに移転するとして、買上げ方式で行くのか、借家方式でいくのかという問題はあるでしょう。権利関係の安定性を考えれば買上げた方が楽なのですが、単年度で買収予算するとなると相当なお金を工面する必要があり起債などは避けられないでしょう。起債するとしてとりあえず金利が安いうちはいいのですが、借換えとかやったりすると借換え時の利率がどうなっているかという話も出てきたりして、予測は簡単ではないでしょう(もちろん、これは新設した場合でも同様の問題があります)。単年度計上が無理なら分割払いって手もあるんですが、支払期間中は所有権はビル所有者に留保する特約とかを付けられると実のところ借家と変わらないですよねぇ。あと、買上げた場合には既存の入居団体をどう扱うかって問題もあります。

 他方で、借家というのは、やはり管財屋としては少し気持ちが悪いというか。第一に、管理の自由度が落ちるというのがありますし、第二に、ビル所有者がビルの所有権を手放した場合に、新しいビルの買受人もテナントが入っていたほうが管理は楽だと考えれば、そのまま府が賃借することについて異論は差し挟まないかもしれませんが、賃料増額あたりの要求はあるかもしれないなぁとかそういう不安はつきまといます。あと、買ってしまえば地方税法第348条第1項の規定で固定資産税が(人的に)非課税なんですが、借家でいくと同法第348条第2項(第1号)によって所有者には税金掛かりますから借家料に税金が転化される分が割高になる恐れはありますよねぇ。

 買上げるか借上げるかはという問題はおいておくとしても、以下のような問題もあります。

  • 建物の自由度の問題

 元々、行政の庁舎専用で作られたオフィスじゃないでしょうから、そこら辺、行政機関が入るのに耐えれるのかという問題があるでしょう。大型の組織改正とかしてたりすると、課室の再配置の関係上、壁ごと取っ払ったりするのが行政の庁舎なのでそういう使用方法に耐えれる建物かという問題はあるでしょうね。

  • 建物の強度の問題

 オフィスビルとして建設されているビルでしょうから、建物にかかる荷重とかには十分に耐えられるのかもしれませんが、本当に建物が設計書どおりの耐震性等の機能を有しているのかよく分からないという問題はあるでしょうね。耐震性能なんて、構造計算上のものであって、施行が杜撰なら幾らでも骨抜きにできるでしょう。
 建替えならそれこそ設計から施行まで丸裸にしてチェックできるのでしょうが、完成品をそのまま買い受けたり借り受けたりするとなると、そうもいかないでしょう。もちろん、建物の一部を破壊するなどの検査で鉄筋の数とかコンクリートの性質とかはサンプル調査できるのかもしれませんが、ゼロベースから建設したって色々と施工の問題が出てくるというのに、買受したら余計チェックが難しいでしょう。もちろん、契約技術的には瑕疵担保責任の問題で金銭で処理するわけですが、この三セク、瑕疵担保責任を問おうにもなくなってる可能性ありますよねぇ。

 建物というのは、建設すればもうお金が掛からないとかそういう性質の財ではありません。定期的に小まめなメンテナンスをしたり、十数年単位で大幅な改修工事を入れたりして維持管理していくものです。そこら辺のコストをトータルで考えて、どっちが安いのかという問題はあるでしょう。特に、その種のコストって設計段階でなければ見直しが難しいコストであるといわれてますので、現在のWTCがどれほど効率的な運用ができる建物なのかって問題はあるでしょう。

  • セキュリティの問題

 事務屋が嫌うとことしては、民間企業と同居した場合にセキュリティーが確保できるのかって言う問題はあるでしょう。行政機関は、大量の個人情報を保有しておりますので、セキュリティーは重要なんですが、他の入居団体がお堅い企業ならいいですが、警備が手薄になる夜などに安易に他の企業のオフィスに入れるような設計だったらちょっと困るように思います。
 



 とか考えると、金で解決がつくなら建替えたほうが…って気持ちは分からなくもないんですよねぇ。まあ、金がないからこそ。大変なんですがw



 なお建替える場合、PFI(でBOTする等)でペイする事業規模だと思うんですが、直感的に言えば、純粋にビル管理業務だけで附帯事業とかで儲けるって方法は取れないと思うので、企業側のうまみはあまりないような気もします。


 まあ、大阪府の中の人には申し訳ないですが、今後どうゆう展開をしていくのかウォッチですな。

*1:そら流石に、600億〜800億円程度の当初案から100億円も減ってれば最大で2割程度落ちてるってことでしょうから大きいですよねぇ。