国有資産等所在市町村交付金にまつわる新聞記事について

 そろそろ国有資産等所在市町村交付金の算定作業について、11月末に控えた台帳通知にむけ作業が大詰めをむかえているのではないかなぁと思います。昨年度は、ただでさえ固定資産評価額の評価替えに当たる年だったのに、地方税法改正により固定資産税の負担調整措置が改正され、地方税法附則のバカみたいに長い条文の意味を掴むのに苦労させらたとともに、その改正後条文における条件関係を表計算ソフト用の数式に置き換えるのに苦労したりもしたのは記憶に新しいところ。
 しかしながら、今年は制度改正2年目で大きな問題なく算定作業がスルーすると思っていた矢先…



大阪府が1億2000万円“税金滞納”


10月17日3時25分配信 産経新聞より



 魔の大型支払対象漏れキタ━━━━━━━━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!
 このニュースは全国の管財業界関係者又は各種交付金関係者を震撼させたに違いないありません(;一_一)


※ なお、断っておくと、市町村交付金は、その名のとおり「交付金」であって、税金のように市町村が課税できるものではありませんし、今回のケースは確定した交付金額に対して、過小な額しか交付金を支払わなかったわけではありませんので、記事のような「滞納」という表現が妥当かどうかについては強い疑問を持っています。


 はじめに、この交付金制度について、ごくごく大雑把に説明するとすれば、国有資産等所在市町村交付金というのは、国や地方公共団体の固定資産のうち、その利用形態が民-民間での利用関係に類似している固定資産(貸付地、公営住宅、職員宿舎等)について、国や地方公共団体が管理する財産台帳に登載された価格の1.4%の額を各市町村に交付する制度です(法第3条各項参照)。これは、地方税法により国や地方公共団体は人的に課税を免れていることに対して、市町村税制の均衡を確保する観点から導入されている制度です。根拠方法は、総務省の所管法令である「国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律(昭和31年法律第82号)」になります。*1

 
 交付金の支払基礎となる算定標準は、基本的には台帳価格になるのですが、財産台帳に登載されている価格については、各団体によって取得価格であったり、時価であったり必ずしも一定しません。また、取得価格を記載するのであれば、土地は物価変動や地価の変動に対応できないでしょうし、建物については減価償却が行われないことになってしまいますし、時価を用いるとすると自治体が独自に保有資産を評価したりすると莫大なコストが掛かると言う問題があります。
 仮に取得価格と時価いづれを採用するにしても、固定資産税の課税標準となる固定資産の価格は、現時点では時価の7割とする運用方法になってしまいますので、どちらにせよ、固定資産税の税額などとはかなり乖離が出てしまいます。そこで、実際的には法第3条第3項及び第10条の規定がありますので、各市町村の固定資産税評価額をベースにして台帳価格を毎年度積算し、また、建物価格の減価償却等を行ったりしたうえで、当該価格を算定基礎に用いているわけです。なお、市町村交付金に用いる算定標準額については、毎年11月末の各市町村への通知に対し、毎年12月末までの各市町村からの修正を申し出ることができるようになっており、その後の申出に対する国や地方公共団体等への対応に不服がある場合には総務大臣への不服を申し立ていることができます。つまり、勝手に国や都道府県が支払対象物件や台帳価格を決めているわけではありません。
 その上で、算定標準となる価格が正式に確定すると翌年の4月末までに市町村からの交付金請求が行われ、同年6月末に支払が行われるわけです。


 さて、以上のような基礎知識を十分にふまえて、先の記事を検証するといくつか解せない部分が出てきます。


 今回の交付金の支払対象漏れの原因は…

近鉄けいはんな線荒本駅前(東大阪市荒本北)の約2.2ヘクタールで、ショッピングセンター「カルフール東大阪」が平成15年10月から営業。14年12月に20年間の定期借地として賃貸契約が結ばれた。

ことについて、

担当者が問題の土地が交付金を納付すべき対象物件であることを失念。

したことと掲載されています。しかし、これについては2点ほど気になることがあります。


1 定期借地権により公有地の民間貸付を行う際、貸付料を設定し貸付による集積を見積もるために国有資産等所在市町村交付金による実質的な収入のマイマスについて当初から想定するのが一般的だと仮定すると、交付金の支払対象から漏れていたことを失念しているというのは疑問であること。
 定期借地権導入による歳入増だけ見込んで、定期借地権の導入による歳出減を見込んでいなかったと言うのは、ちょっと考えられないのではないでしょうか。定期借地権の導入については、法的また財産運用的に様々な角度での検討を行うものであると耳にしております。
 また、当該対象物件は2.2ha(2.2万平米)の広さがある広大な土地で、交付金の予定額が3000万円ということは仮に1.4%で割り戻したとするならば、交付金の算定標準額は約21億4285万円(約97,402円/平方メートル)*2、これを地価の7割評価であると仮定して、かなり大雑把な時価になおすと約30億6121万円(約139,000円/平方メートル)程度とります。
 大阪市が、どのようにして定期借地権の貸付料をどのように定めているのは詳しく知りませんが、大阪府公有財産規則(昭和43年規則第30号)第33条第1号イに該当するものとして、先ほどの超大雑把な時価計算で得た数字を元に貸付料を積算すると年間貸付料で約2億2652万円程度にはなると考えます。
 とすると、これだけの金額の財産収入が得れるにも関わらず交付金の支払担当部局で、その動きを把握していなかったと言うのはちょっと考えられない話ではあるよなぁという気がしています。まぁ、初年度に支払い漏れを起こしていたから誰も気づかなくって、以後はずっとそのままだったのだと思いますが、大きい組織であればあるほどこのようなミスも発生しやすくなると言うことなのかもしれません。


2 仮に大阪府が市町村交付金の対象物件であることを失念していたとしても、東大阪市は指摘できたのではないのか、なのに指摘しなかったのはおかしいのではないかと言うこと。
 先にも述べたように、市町村交付金の台帳価格については、市町村に通知したり、市町村からの修正の申し出を受けられるはずでして、東大阪市のサイドもチェックすれば分かっていたのではないかという疑問が出てきます。
 もちろん、定期借地権を締結した直後であったり、仮に借地を行っていても更地に近い利用であれば、実地調査なりを行わなければ貸付実態は把握できない場合も十分に考えられます。しかしながら、今回のケースは、ショッピングセンターです。ショッピングセンターが建設されているのであれば、建物は恐らく民間事業者が所有していると考えられますから、所有者に固定資産税はかかっているでしょう。そうであれば、東大阪市が対象物件漏れに気づくチャンスはあったのではないかと考えられるのです。
 まあ、土地と建物の評価は別係だったりしますので、連携が取れなければそれで終わりなのかも知れませんけど。


 また、今後の問題として、

府は今後正式に計算したうえで、来年度予算で滞納分と来年度分を一括して市に支払う予定という。

と書いてあるのですが、市町村交付金の確定金額に対して過小な交付金しか支払っていなかったのであれば別のことですが、過去に適法に確定した交付金額について、仮に支払対象漏れがあったからといっても事後にそれを支払うと言う処理もいかがなものでしょうか。法的に支出する根拠がないのはもちろんのことですが、今回は府の支払うべき額が不足していたわけですが、逆に府が過剰に支払っていたら場面があったら不当利得として返還請求するのでしょうか。先にも述べたように、市町村側からも一定のチェックなり修正が可能な制度が担保されているのですから、一度確定した金額を事後に間違っていたからといって払い直すような取り扱いは交付金制度を不安定なものにするだけであり、妥当ではないと考えます。


 まあ、今回の件については時事通信社のiJUMPを読んだあたりでは監査に指摘を受けたようですので、他山の石とすべき事例かなと思っております。

*1:なお、総務省のデータベースに掲載されている条文には、法改正での条ズレ修正がなされていない部分があるような気がするのですが…。

*2:財団法人 資産評価システム研究センターが提供している地価マップで確認したところでも、固定資産税路線価で北側及び東側が119,000円/平方メートル、南側が107,000円/平方メートルとなりましたので、形状や面積等の補正を入れれば、ほぼ妥当な数字かと思います。